米国のウクライナ支援継続

2024/4/28

なぜウクライナ戦争は終わらないのか?
―「戦争立国アメリカ」の戦争経済学―
川上高司 日本外交政策学会理事長

●米国のウクライナ支援継続の背後にあるもの

バイデン政権はウクライナ向けに610億ドルの支援4月24日に決定した。署名した。ウクライナへの兵器輸送はすでに開始されているとみられる。米国は第1弾としてすでに10億ドルの兵器供給を承認しており、これには弾薬、車両、対空ミサイル「スティンガー」、高機動ロケット砲システム向けの追加弾薬、155ミリ砲弾、対戦車ミサイル「TOW」および「ジャベリン」、そのほか戦場で直ちに使用できる兵器が含まれている。

 最大の支援国である米国が決めた軍事支援は2023年末に事実上底をつき、弾薬不足に陥るウクライナは劣勢を強いられていた。現時点でウクライナ軍が使用する弾薬はロシア軍の5分の1にとどまる。米国が支援をしなければ「年末までに敗北する危険性が非常に高い」が、「追加支援があれば24年末から25年初めまでにウクライナは攻勢の主導権を取り戻し、より強力な立場で交渉できる」とCIAのバーンズ長官は分析していた。特に、ロシアは5月には大規模攻勢をすると予測され、米国は支援再開を急いだ。

●トランプ前大統領の一言で支援継続決定

 ウクライナ支援に関して、上院は今年2月、対ウクライナ支援を含む総額953億ドルの緊急予算案を賛成多数で可決していたが下院で多数派を握る共和の反対で承認が難航していた。しかしながら、トランプ前大統領が4月12日に米国のウクライナ支援に関して「単なる贈与でなく融資の形にすることを考えている」と表明した。11月に大統領選を控え、財政規律を重んじる共和支持層の支援反対論に配慮し、かつ武器産業への考慮もあってかと考えられる。

下院の採決で賛成は311票、反対は112票だった。共和は101人が賛成し、112人が反対に回った。民主は投票した210人全員が賛成に回った。その結果、下院は対ウクライナ予算案で返済義務が生じる融資を導入した。経済分野の95億ドルは融資の仕組みを使う。返済条件は米大統領が設定し、米国の判断で債務を帳消しにできるようにする。

●没収したロシア資産をウクライナ支援にあてる

その他、今回のウクライナ支援に関しては、制裁によって凍結されたロシアの資産を充てることが考えられている。世界中で制裁によって凍結されたロシアの資産は、およそ3000億ドルでこのうちアメリカの管轄下には40〜50億ドルとされる。今回、米議会は「侵略をはじめとするロシアによる不法行為は、米政府や他国が管轄下にあるロシアの資産を没収するため法的権限確立を正当化する」として、ロシアの保有資産を没収できることを可決した。

バイデン政権は、これまでロシアの凍結資産について、資産を没収したうえで、ウクライナへの軍事支援や長期的な復興に向けて活用することに前向きな姿勢を示しており、議会の後押しを受けた形となる。

●真の理由は米武器産業からの圧力かー

米防衛企業はすでにウクライナに対して装備品を供給する大型契約を結んでいる。ウクライナ戦争が始まってから、米国の兵器輸出の4割はウクライナ向けである。今回の法案成立の裏には、武器産業界からの法案設立へのロビイングも激しかったと考えられる。米ロッキード・マーチンや英BAEシステムズの22年の受注は過去最高になっている。ウクライナ向けの軍事支援や自国の防衛力強化で需要は急増している。ウクライナは22年だけをみればカタール、インドに次ぐ世界3位の兵器輸入国だった。18〜22年では14位で、輸入全体の2%を占めた。 

ロシアのウクライナ侵攻など地政学的な緊張を背景に、米国の輸出は拡大し、世界の兵器輸出に占めるシェアが4割に達しトップの座にある。2位のロシアは2割を割り込み、米国の軍事大国としての地位が一段と増している(SIPRI「兵器の国際移転に関する報告書」)。世界の兵器の移転は2018〜22年に5.1%減少(13〜17年比)し、欧州は輸入を47%増加。アフリカやアジア・オセアニア、米州、中東は軒並み減らした。

米国は兵器の輸出を2018〜22年に14%増し(13〜17年に比べ)、世界の兵器輸出で米国は33%から40%に上昇した。輸出先はサウジアラビア、日本、オーストラリアがトップ3で、ロシアとの対立が深まる欧州向けも増えている。

2位のロシアのシェアは22%から16%に低下した。輸出先はインド、中国、エジプトを合わせて全体の3分の2弱を占めるが、3カ国はいずれも足元ではロシアからの輸入を抑制している。インド、中国は兵器の国産化を進めている。エジプトに対しては米国がロシア製を購入しないよう圧力をかけているとみられる。アメリカや西側の対ロシア制裁で中立国もロシアから兵器を買いにくい状況になっている。ロシアは輸出より自軍への供給を優先している面もある。

3位のフランスはシェアを伸ばしたが、4、5位の中国、ドイツはシェアを落とした。上位5カ国で輸出全体の4分の3を占める。欧州各国はウクライナに兵器や弾薬を支援し続けているが、補充が追いつかない状況である。欧州は年30万発の155ミリ砲弾を製造するが、ウクライナは約3カ月で消費するという。

 このような武器産業業界はウクライナ戦争、中東戦争、台湾や北朝鮮をめぐる軍事的緊張の高まりで好況を呈している。このような戦争経済学の観点からみると戦争と経済との相関関係は切っても切れない関係にあると言えよう。